短歌

デフラグ

霧雨の僅かにかかる花火の夜 怯えるだろうわたくしたちは要はそれ 痩せた青柳が埋まる北国の列車に飽きている月さんざめく雨の庭園 冷えてゆく種を埋めよう甘い麺麭には白いシャツの下にデフラグされている夜を隠して (おまへののぞみ) われわれの眩しき頭痛…

水玉

いたわりの舟が着くころ南欧のことばが探している詩のかたち水玉のバリウム飲んでわがつまがことりと眠る (飴の降る夜だ)楽しげなカウントダウンを聞かせてよ ゆえに鏡の奥で鳴く小鳥

カジノ

指のごと喰われていてまた温かき部品 鳥のうずくまる外に出てゆく夢で見るカジノだったの さきざきにひと足とひと とのおわらぬ禁忌橘の、ね、枯れている、青鹿がわがつまににて背尾をみせたり、

若妻

白樺の林だったか 夕枯に飛び立つ前に過ぐる鉄塔若妻の列車に躍る型紙のような片言 間もなく雨が霧が額にかかる上海蟹の皿 温き雲すぢのパニック・シティ

踏み草。

死ぬ前の貝を見て居る 云うなれば 悪いがまた駄目だつて。うつむいているのは春。金属の匂いが渡る激しき日暮れ僕は早く知って欲しかつた。踏み草のときめきに近い夕闇の色

谷底

谷底は昏くむやみに星が降る 廃車のかげで今笑ったね立ちすくむ間合いはなくていいだろう 動くものの無い児童公園温もりは何なの君がすり減って呼ばれて消える暖かい麺

海ぎはは昏く急いでいる電車 われらが跨がるせわしなき線うたつかいの呼び声が遠ざかるとき 横たわろうか眉をひそめて驚きが触れてるくるまでシナリオは終わらずにわずかに焦げてゆく言いつのる事はなくなり悲しんでいるのはたしかしょつぱいソース大騒ぎす…

馬来西亜

熱き夜にまろぶ武装ね 銀色の双塔震え呼ぶマレーシア 旅人のように車を走らせてよい? 眠たげに言う花言葉厳かにも谷間は続き都市の見る夜が来るならば静まれ夢よ柑橘の香りのようにすり足の夜が来ている川向こうには

茘枝茶

うるうると悲しみは除水されているボール紙の箱に古るライチティー或る夜を浸す後退するわたし 見い出されないものを出来事と呼ぶ暖かい夜がデザインされていて君が止め処なく跨ぐ白線覗かせて貰おうかとでも 半開の月がビルまでせばまるあした

マッカリヌプリ

不似合ひな腰高のをんな 3月の蝦夷富士。の帯に、流れる速水少年の唄は病ひにも似て遅い 聖典の如くマッカリヌプリ青空の下には敷かれる東屋を 石狩岳には観られる人をーーーー マッカリヌプリこと蝦夷富士は実家近くにそびえたつ羊蹄山の別名。 アイヌ語の…

『塔』2012年2月号掲載歌

『塔』2012年2月号の掲載歌です。 - 包帯のような苛立ちに縛られて夜は死ぬのだそれはそれとして快速で逃れる舟よためらはず大きく曲がれおまえの時間眼を閉じてあきらめの橋を渡る時私はよく啼く夜鷹の一部昏迷すらはかなくなって(冬空に)ななかまどの実…

月桃

新しい貝よ人気の無い夜をそぞろに行けば春めく迂回終はらないことの不思議さ。甘辛き月桃水。を、肺深く吸ふ終わりつつあるのはおまへ 爆竹を振り回しをり白いジャグラー

馬酔木

ワタスゲの無き街で歩き疲れつつ屈めば我等は小さな魚今更だが人為の火照る夕暮が見つからないのだ、「苦しみたきを」我々といへば人為である所 馬酔木に酔いて嘆くオフェンス

ジンジャー

まざまざと思い返し居る朝、温く口蓋に触れる乳とジンジャア十年の不安を抱えた船として僕らは出会うためらう沖でおそらく一度しかなかった夜なのか ささやくような爆竹の春

『塔』2012年1月号掲載歌

『塔』2012年1月号の掲載歌です。 - 山査子の匂いは流れてゆくばかり 迷いつつ君は立ち上がって 今其所の熱き懸念よまざまざと留まるがいい病む船として 君の荷が引きずられてゆく砂利の道 正夢は赤いテントを張って 私等の棲まう柔らかきこちら側 低く曇天…

あけましておめでとうございます。

今年もぽつぽつ更新していきますのでよろしくお願いします。 今年もkuの写真とコラボで。 kuにも今年も使って頂きました。 ありがとう。 http://layer00.info/2012/01/15/2012/以下、今年最初の詠草です。 ーーー忘れ草と百合根の皿を盛らせよう 白い寝椅子…

或る夜に眩暈の如く囚われて戦うべくして戦うおまへ悲しみが弛む瞬間を待つとしても 日々よほぼ悲しみの様に軋めよ銀いろの橋で忘れものが始まればゆるゆると河に落ちてゆく霧

『塔』2011年12月号掲載歌

『塔』2011年12月号の掲載歌です。 - ぼんやりと仮想の二階に住んでいる 曇天にまだ隠れたつもり街が水底のように暗かった。魚は壁を透かし見ている歌はみな真実では無いものとして見えるうつわの様な発話で格納庫によろめきながら入り込むひとよ昨日の用事…

『塔』2011年11月号掲載歌

『塔』2011年11月号の掲載歌です。(池本一郎選) - 椋鳥の撒き散らすす雪が見えるかい 形あることのみを記憶せよ帯えつつ二人が覗くある夜は化繊の如く凪ぐ滑らかさゆらゆらと森は眠りぬ 諦めた海ね夜霧が埋める間合いは

バーチャル

うらうらと含むターゲット 珍しくきみは語り出す或る死についてぼろぼろになりたいだけで 一義的には北国に降る空の塩(バーチャルなチームね ) 今夜満たされるならばふつつかにも夜はきんいろ

雪ん子

眠たげな顔の車輌が近づいて来ればしかめっ面の風が寄って行く柔らかに毒が回っている間それと知らされず立ちすくむ花包帯のような苛立ちに縛られて夜は死ぬのだそれはそれとして快速で逃れる舟よためらはず大きく曲がれおまへの時間 雪ん子がまわるシールド…

Venice

ひたひたと海面が迫りくる夜はわたしはわたしの迷いを思う激流は暫く無かった 一瞬でYesと言った雪崩の後は引き潮の後はことばが続かずに雲雀のような我等の隠語 そろそろと触れてくるやうな親しさを閉じ込めておく海下の街に黒塗りの芸術家よ架上にて地上の…

正夢

君の荷が引きずられてゆく砂利の道 正夢は赤いテントを張って昏迷すらはかなくなって(冬空に)ななかまどの実が枝にあるようだ飛行機はずっと眠りの中にある わななくように地平を移動眼をつむりあたためておけ症例を 情動が沁む写真を撮って

『塔』2011年10月号掲載歌

『塔』2011年10月号掲載歌です。ーーーーーーゆつくりとこの世の別れをしたのかい まだ違う、さらに違うと云いぬ夕暮れはいつか始まるものなのか 終わつた後の凪ぐテリトリー夏が来て大きくなる木を背にしよう ためらいはむしろおまえのために灰色の眼をする…

山査子

山査子の匂いは流れてゆくばかり 迷いつつ君は立ち上がって地の底に過ちがある ふわふわと行っても人為がにじみ出るビル今其所の熱き懸念よまざまざと留まるがいい病む船として

穂村弘「短歌ください」

穂村弘の「短歌ください」を読んでいたら、以前も紹介した2008-11-15 - 曇3年前の投稿歌が載っていてびっくり。 短歌ください (ダ・ヴィンチブックス)作者: 穂村弘出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2011/03/18メディア: 単行本 クリック: 23回…

眼裏

海上の都市を夢として閉じておく我等が恐れる政治の季節目的は鮒のようにためらわず去りゆくいささかの寛容さ記憶とは記憶の中にある街にやみくもに在る枯野のからだ

貝は砂を吐き出しながら閉じてゆく 沖の私よ忘れてしまへ立ち止まるあわひは布地の柔らかさとなり消えるが 時よ死ぬべし海に火が漂うようにあたたかい言葉が見える私の沖に

うつわ

むつかしさは明るき驟雨の如く降り欲望の芽をまだ愛でておく歌はみな真実では無いものとして見えるうつわの様な発話で泣きそうになる時君を埋め尽くす言葉は砂鉄の様に逸らされる格納庫によろめきながら入り込むひとよ昨日の用事は済んだ?

私等の棲まう柔らかきこちら側 低く曇天の陽を浴びている多分襞があればいいのだと知りながら (私も君も目を伏せている)かたくなに夢よ石として冷えながら許されてある私のこころ