いつまで私が必要とは訊かぬ しずかに蟹の眠る水槽
銀色に輝く卓に牡蠣の身が引き出されるとき背を傾ける
幸せであるかのような鏡を見たき 大理石の暖まる間
眠りから滑車は出でぬ 桃色の光るキャタピラが廻る夢から
ある眠りは突然に来たかのようで麻酔の如くあるべき時刻
目蓋の明るきひなげしの海よ 夢を引き剥がす軽い悦楽
ぱりぱりとクッキーを噛みひなげしの逆巻く夢から立ち上がる我
夢はなにも夢ではなかった 音のない日付から抜けだしたひと
暖かき眩みが消えて懐かしき嘔吐の味もやがて忘れる
目を覚まし「身代金は?」と訊く我に大丈夫だよと君は応える
急速に暖まりゆく部屋 起きていた君にひなげしの話はしない