夕暮

同じことのくり返しであれ かつて弾きしピアノの音が鳴り吾を苦しめつ

ふわふわとと歩いていると飴のやうに甘さがひかる 糸のごとしも

驚きが膨れるときも信念は三半規管のしずかな重し

幻想の中では、黒い鞄。ふわりと落ちゆく匂いなき空

独断が招きし紅葉 ハイマツの這う雲中で泥に親しむ

父母の気配が鷗のように飛ぶ おとうとの作る温かき皿

生き急ぐむつかしさには 覆いくる褥の陰に湿る干し草

終電のすき間が見える ゆっくりとトラック曲がり入るたべもの