『塔』2012年1月号掲載歌

『塔』2012年1月号の掲載歌です。

                    • -

山査子の匂いは流れてゆくばかり 迷いつつ君は立ち上がって
今其所の熱き懸念よまざまざと留まるがいい病む船として
君の荷が引きずられてゆく砂利の道 正夢は赤いテントを張って
私等の棲まう柔らかきこちら側 低く曇天の陽を浴びている
街が水底のように暗かった。魚は壁を透かし見ている
記憶とは記憶の中にある街にやみくもに在る枯野のからだ