『塔』2012年1月号掲載歌

『塔』2012年1月号の掲載歌です。

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山査子の匂いは流れてゆくばかり 迷いつつ君は立ち上がって
今其所の熱き懸念よまざまざと留まるがいい病む船として
君の荷が引きずられてゆく砂利の道 正夢は赤いテントを張って
私等の棲まう柔らかきこちら側 低く曇天の陽を浴びている
街が水底のように暗かった。魚は壁を透かし見ている
記憶とは記憶の中にある街にやみくもに在る枯野のからだ

あけましておめでとうございます。

今年もぽつぽつ更新していきますのでよろしくお願いします。


今年もkuの写真とコラボで。
kuにも今年も使って頂きました。
ありがとう。
http://layer00.info/2012/01/15/2012/

以下、今年最初の詠草です。
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忘れ草と百合根の皿を盛らせよう 白い寝椅子に私は眠る

うたた寝の激しからずや 子らのごと触れ合えり地に手をついたまま

ほの昏い地下道にあり運ばれる からだに朝日の如く音楽が

疑いが朝日の如くくぐもりぬ 君の享楽が見抜かれている

『塔』2011年12月号掲載歌

『塔』2011年12月号の掲載歌です。

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ぼんやりと仮想の二階に住んでいる 曇天にまだ隠れたつもり

街が水底のように暗かった。魚は壁を透かし見ている

歌はみな真実では無いものとして見えるうつわの様な発話で

格納庫によろめきながら入り込むひとよ昨日の用事は済んだ?

海に火が漂うようにあたたかい言葉が見える私の沖に

『塔』2011年11月号掲載歌

『塔』2011年11月号の掲載歌です。(池本一郎選)

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椋鳥の撒き散らすす雪が見えるかい 形あることのみを記憶せよ

帯えつつ二人が覗くある夜は化繊の如く凪ぐ滑らかさ

ゆらゆらと森は眠りぬ 諦めた海ね夜霧が埋める間合いは

バーチャル

うらうらと含むターゲット 珍しくきみは語り出す或る死について

ぼろぼろになりたいだけで 一義的には北国に降る空の塩

(バーチャルなチームね ) 今夜満たされるならばふつつかにも夜はきんいろ

雪ん子

眠たげな顔の車輌が近づいて来ればしかめっ面の風が寄って行く

柔らかに毒が回っている間それと知らされず立ちすくむ花

包帯のような苛立ちに縛られて夜は死ぬのだそれはそれとして

快速で逃れる舟よためらはず大きく曲がれおまへの時間

雪ん子がまわるシールド 想像の秋の中から死にゆくこころ

眼を閉じてあきらめの橋を渡る時私は良く啼く夜鷹の一部