短歌

水滴

悲しみは消えざるを得ず遠ざかる驟雨が私の足を濡らしぬ街が水底のように暗かった。魚は壁を透かし見ている僕には金属の細胞があるから 衣のかたまりごと抱いてみるあるべきの身振りとしてまた見せらるる かくもうつぶせとは激しきを

聖火

燃えている感光紙が背を伸ばすよう思い直しぬ ふと灰が散る青き肩の荷を光らせて躓きぬ 記憶とは一回きりで良く言葉が頬を覆い隠しているらしい 行こうか、チビが見ている前でぼんやりと仮想の二階に住んでいる 曇天にまだ隠れたつもり

土地

ふるさとによく似た荒々しき街で私が願って良いことは何眼を閉じておきながらためらうならば鏡のようなおまへの海辺表現が人を追い詰めていくように人が思い知る堕胎のすすめ

フリーク

悲しみの匂いは迷っている徴であろう 魚が舐める液体早く死んでしまいたいと思います 何度も君の前でつぶやくふらふらと渡ってゆきたいその街は真綿のごとき砂鉄の匂いフリークになればいいだろ 底冷えの部屋で朝日に洗われながら青い鳥が走って居りぬ 水辺…

フレーム

逸話を今賑やかに取り交わすとき オーライ、彼は息を止めていたゆつくりとこの世の別れをしたのかい まだ違う、さらに違うと云いぬフレームを越境するとき眠るとき 私はおまえの手の内にある

領域

われわれは過程の中で眼を閉じる魚 目覚めが船の如く着く夏が来て大きくなる木を背にしよう ためらいはむしろおまえのために夕暮れはいつか始まるものなのか 終わつた後の凪ぐテリトリー

夏山

情動が夏山のごとく青かりし 日陰に育つやはらかき豆灰色の眼をすることは夏山を滑り落ち行く少女の仕草五月雨が分からなかった 青い火の如きミントの雨に降られて

鹿とアクリル

君の腕は温き雨音に消えてゆく白い柱ね 甘い計画山羊の眼となり観るがいい 夕暮れに涙し夜は戦うひかりアクリルに封じ込まれた鹿を見て居りしが 汉语Hanyuの蝶の羽ばたき (名和晃平展)

化繊

怯えつつ二人が覗くある夜は化繊の如く凪ぐ滑らかさゆらゆらと炎のめぐりが明るくて遠かりき 君が守られる春ゆらゆらと森は眠りぬ 諦めた海ね夜霧が埋める間合いはビニールの白い波間にかがむ時我らは魚のようにくるまれる我々の不遜はいつか現れる青い車の…

椋鳥

うつ伏せになって眠りぬ われわれの海辺の様に灰は積もりつつどちらかの旗が欲しいが 片側に流されている方の旗が好きだろ椋鳥の撒き散らす雪が見えるかい 形あることのみを記憶せよ

灰色

書は青く汚れているという街に戦いのごとく拡がることば灰色のわたしの子どもに言っておく ここは彼等が知らない街だ鳥の眼が損なわれている 鳥の眼になって私はまだ眠りたい

からたち

青い湯に浸されているからたちのように間もなく痺れる記憶こどもではなくて良かった 忘却に捧げるために火を焚くおまへ過ぎゆけば歩みは歩み 目を閉じた君が変質を愛でているかなしみに間に合わなかつたはろばろと青白い場所でたたかう一人

朝方

眠る前其処は私の場所である 戦いをやめる頃のつぶやき暗やみは終わりは語りのように来てとぎれとぎれの私の恐れ昼がおが旗を振っている 今みてるのが夢ならば朝がたに風わたくしと同類 君は行使する立ち止まらないという暴力を信仰のつもり?おまへは振りか…

昼顔

木の足が歩いて来るのを待っている 今夜の椅子は少し騒がしい一瞬で叙情は擦り切れるという しらしらと腕が夜に溶けてゆく昼がをの優しき顔も想像できるのだろうが 赤い持ち手を

青ざめて部屋に戻ればいいものを 白く泡立つ綿毛の北京ゆらゆらと眼には涙を借景の如く人には赤毛の額を君の純粋さはかつてと違う形を取るだろう 電話が鳴りぬ或る時は不必要だつた音を立て君は出て行く 花を付けたままあかあかと時が止まった様な顔をしてい…

月面

月面の模様のようなストールは石膏に寄り添う影の色Creamのような海辺に座るため躓いて飲む海のスープをある朝が鏡のように目前にあり見える事を不安に思う青い湯に共に沈んでいる方の体が私=見ていない物 わたくしが培われ試されている土臭き場所 貝の生き…

青い絹の波があたたかい 暗やみに革の小舟が現れた時さまざまに想像の城があり燃えている 布地の上を渡る火のひかり肩を竦めた鳥のやうなる羽枕 ぽとりと落ちるこの手の先で長い台詞がはじまる前にほの暗き小さな箱の様に部屋を見る四つ打ちの様にメールを打…

我々は桜に何も感じずに煙の如くたゆたう歩み伝えたい事とはなにか 白い布のあいだに煙のように入って灰のように私は眠く柔らかい煙が口蓋の中を歩いて

水槽

水槽の玉石の上をひらひらと歩む青臭き夜を道づれに我々の季節はずれる 大声で回路で叫んでいた花の道この先も今が嫌いでいいですか 冷たい風吹く未来があれば

新年2

我々は見えないものが積もる床 街にまだ見ぬ桜の気配 灰のように疾く流れてゆきたくて手に入れたあと捨てる花びら春節の水槽に火を灯そうか 空を見上げて振り回す骰子

偽証

やわやわと冬の匂いが消えるころ恋愛は死ぬと君はささやくささやいて居るのは誰かいつわりを 君と云う我 我と云う君おそらくは水仙の様に偽りを裏庭に咲かせ見ている一人

風車

われわれの特別性とは何だろう 不可能性と云う光る束知り尽くしつつある処の青い幹 逞しくあれおまえの叙情やわらかく失われてゆけばよいのだろう 一散に風に向く風車の如く

馬上

地の果てに左腕型の岩があり夢を忘れる手助けをする淋しがりのわたしが嫌い ほのお立つ線路の肌がまだあたたかい孤独と云う馬に跨れば恩寵のように砂降る ふらふらと雪人気無い街に私を置いてって そのまま黙って代補を埋めて

踊り

困難を綿毛のように浮かべつつ 冬はかがやく視覚の中でわれわれの赤毛が燃える 風下の草むらの中で赤子の如くこれ以上の萩の枝振り 踊りつつ振り返るときに広がるみどり言わないで居たら駄目なの?空間はもう踊ってる 冷たい写真

横臥

まだ何も耳を側だてないように われわれの肺が目覚める昏さ海際で母のカメラが濡れたとき 濡れた一部がわたしであればうつ伏せると冷たい花火と思はれる 鼻は冷たく柔らかい部位君は眼が閉じられる時の音楽を聴いている 石が割られる音を

あけましておめでとうございます。

今年も少しずつ更新してゆこうとおもいます。 よろしくお願いします。 では、相変わらずですが短歌近作数首。ーーー 魚のやうに貼り付いた後提案をする側として食卓に就く紅い布が大きく膨らみ僕は僕で気儘に貝を買ってゐつたりがさがさと羽が触れゆく処から…

絵本

したたかに と言われていた日が作られる 3人が読む絵本の世界引きさかれて居る時強き身振りしてひとは笑いぬ星撃つごとく沈黙のまま知られずにあるかたちに私を変えて抱き寄せていくぱちぱちと燃えいる枝に近づいて百舌は輝く現在の鳥

青い森

青い森に蜂がいるらしい 痛いのは嫌と云うと刺すやうなわたし等の代わりになつて流れゆく川はささやく これはなんなの踊り子のように黒猫は見つめ合い 許諾の鐘を鳴らさずに居る吾々は言葉の代はりに与えられ言葉となつて消えゆく 友よ

岩宿

温めている一瞬は分からなくなっているのかのやうな白い貝現実は言葉のようにひび割れる 酢はき粗目の舌が黙すままあじさいの歯が欠けている 灼けていく果肉の如く寝る美術館ただいまと云えば真水が流れ込み 黒い内張りの岩をひたしぬ彷徨の如く書物がやって…

投げ縄のやうでもありぬ われわれの水が蒸発する天の辺傘を畳む瞬間は濡れてもいい時間 怒りを隠せず立つ駅の端青い貝が死ぬ前のようにばらばらとビルの縁飾りがひかりを放つ立ち止まるひとは逃げ去る音楽で わたしの代わりに足をとどめるカーブする骨がすべ…